『多品種少量』を武器に変える。HILLTOPに学ぶ町工場のビジネスモデル

こんにちは、中小企業診断士の櫻井です。

今回は、京都の町工場・HILLTOP株式会社(以下、HILLTOP)の事例から、「多品種少量生産で儲かる仕組み」について考えていきます。

目次

会社概要

HILLTOPは、大手メーカー向けの下請け大量生産から、「一個からでも受注する」多品種少量生産へと事業モデルを転換し、さらに職人のノウハウをデータ化することで、少量受注でも利益が残る仕組みをつくりました。「一品ものだから、標準化やデータ化はできない」という思い込みを疑い、加工そのものではなく「加工条件の決め方」や「工程の組み立て方」をデータとして残した点が、この転換の核心だと考えています。中小製造業の皆さまがまず参考にすべきなのは、最新設備の導入でも規模拡大でもなく、「ベテランの頭の中にしかないノウハウを、会社の記録として残す」という発想です。

HILLTOPとは、どんな会社か

HILLTOPは、もともと自動車部品の量産下請け工場でした。しかし、大手メーカーからのコストダウン要求をきっかけに、量産型のビジネスから距離を置き、「図面1枚から」「1個からでも受注する」試作・単品加工へと舵を切ります。

主な顧客・市場は、自動車(電動化含む)、航空宇宙、医療・分析機器、半導体装置、大学・研究機関、スタートアップなど多岐にわたっています。

3つの収益エンジン

現在の収益は、①部品加工、②装置開発、③DXソリューションの3事業が担っています。部品加工がキャッシュの源泉、装置開発が成長の第二の柱、そしてDXソリューションがストック型収益とブランドの源泉、という役割分担です。

そしてその事業基盤を支えるのが、HILLTOP SYSTEM(職人技データベース)です。

収益構造の特徴

収益の特徴は以下の通り。

①付加価値の高い受託加工
多品種単体は量産工場が嫌う領域であり、「1個から・超短納期・図面なし相談可」の受注態勢が価格競争を回避しています。受注の約8割が多品種単品です。

②装置・設備の一貫受託
部品加工で培った設計・調達・製作・組立能力を、解析装置や医療関連装置の受託開発へ展開しています。

③ストック型収益の創出
COMlogiQ(加工プログラムをAIが自動生成するサブスクサービス)のサブスクにより、一度作ったシステム資産を「繰り返し売れる収益」に転換。加工賃というフロー収益にストック収益を上乗せする構造を確立しました。

HILLTOPの何が特徴的なのか、

一言で表すと、

「職人の頭の中にあったノウハウをデータ化し、多品種少量生産を自動化した会社」

です。

従来の町工場では、

職人 → 工作機械 → 製品

という形で、「機械を動かす人」が必要になります。
HILLTOPはこれを、

人 → 加工方法を考える・プログラムする → データ → 工作機械 → 自動加工

という構造に変えました。
職人の経験や勘に依存していた加工条件や工程をデータベース化し、独自の「HILLTOP SYSTEM」を構築。過去の加工データを利用することで、経験の浅い社員でも加工を行いやすくし、多品種・単品加工でも24時間無人加工できる仕組みを作っています。

職人技のデータベース化

1983年から独自の「HILLTOP SYSTEM」の構築を開始し、職人の経験や勘に頼っていた加工条件・工程を、データベースとして蓄積していきました。通常、機械加工のプログラム作成には800項目を超えるパラメータ判断が必要とされますが、HILLTOPはこれを約25項目にまで絞り込み、経験の浅い社員でも高精度の加工プログラムを作成できる体制を整えています。その結果、受注の8割を「一個からの単品加工」が占めながら、新規受注で5日、リピート受注では3日という短納期を実現しました。一度受けた仕事のノウハウが記録として会社に残るため、数年後に同じ注文が来ても再現でき、受注をこなすたびに会社の資産が積み上がっていく構造になっています。

もう一つ見逃せないのが、取引先を特定の大手企業に絞らず、多数の顧客に分散させている点です。京都府の資料では、HILLTOPの取引先は2,000社を超えるとされ、いわゆる「ロングテール型」のビジネスモデルと紹介されています。少数の大口顧客に依存すると、値下げ要求や取引縮小の影響を一気に受けてしまいますが、顧客を分散させておけば、経営リスクは相対的に小さくなります。ノウハウのデータ化と顧客分散は、どちらか一方だけでは機能しにくく、両方がそろって初めて「小口案件を数多くこなしても利益が残る仕組み」になっている点も、あわせて押さえておきたいところです。

HILLTOPのビジネスモデルは、次のように分解すると理解しやすいと思います。

「多品種少量 × 高付加価値 × データ蓄積 × 自動化 × 顧客分散」

です。

中小企業が参考にできる5つのポイント

特に多品種少量生産がメインの中小製造業の方々は、次の5点が参考になると思います。

  1. 「多品種少量だから標準化できない」を疑う。
     加工そのものを完全標準化するのではなく、「加工条件の決め方」「段取り」「工程設計」などをデータとして残す。ここから始めれば、小規模企業でも取り組めます。
  2. 設備投資より先にノウハウを見える化する。
    HILLTOPの本質は最新設備ではなく、職人技をデータ化したことです。中小企業なら「ベテランAさんしか分からない仕事」を洗い出し、加工条件・判断基準・段取り・トラブル対応などを記録するだけでも第一歩になります。
  3. 単純作業を減らして、人を高付加価値業務へ移す。
    自動化による「省人化」だけを見るのではなく、浮いた時間を改善・営業・設計・新製品開発などに振り向ける。これは人手不足企業ほど重要です。
  4. 大口顧客依存から、小口顧客分散へ転換する。
    「大手1社から1億円」ではなく「多数の顧客から小口案件を取る」方向です。ただし、多数の小口注文を人力で管理すると間接コストが膨らむため、標準化・データ化・自動化とのセットがポイントです。
  5. 一度の仕事を「会社の資産」に変える。
    これがHILLTOPから学べる最大のポイントの一つです。通常の町工場では、仕事をすると職人の経験値が上がります。しかしその人が退職すると経験も会社から失われます。データ化すれば、仕事をするたびに会社そのものにノウハウが蓄積します。

中小企業が今すべきこと

①ベテランしかできない仕事を洗い出す
まずは、「あの人にしか分からない」と言われている仕事をリストアップしてみてください。加工条件、判断基準、段取り、トラブル対応など、頭の中にしかない知識を対象にします。特別なツールは不要で、最初は対象となる業務を書き出すだけで十分です。

②記録の形式は表計算ソフトで十分
最初から高価なシステムを導入する必要はありません。エクセルやスプレッドシートに「条件」「結果」「注意点」を書き残すだけでも、次回の再現性は大きく変わります。担当者が変わっても同じ品質を出せることが目的ですので、記録は完璧である必要はありません。まずは1件からでも記録を残す習慣をつくることが大切です。

③大口顧客への依存度を点検する
売上の何割を上位1〜2社が占めているかを、一度確認してみてください。依存度が高いほど、値下げ要求や取引停止の影響が大きくなります。既存の大口取引を大切にしながらも、小口の新規顧客を少しずつ増やしていく動きを、並行して検討していただくとよいと思います。

次の一手

今週、社内で「この作業はベテランの〇〇さんしかできない」と言われている仕事を1つ選び、その手順と判断基準を紙一枚にまとめてもらってください。

また次回、よろしくお願いします。

ベンチマークコンサルティング
中小企業診断士 櫻井哲也

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この記事を書いた人

ベンチマークコンサルティング代表、中小企業診断士。
|上級ウェブ解析士|上級ウエブ広告マネージャー| 事業承継M&Aエキスパート |東京都中小企業振興公社 事業承継・再生支援アドバイザー|世田谷区振興公社経営相談員|中小企業の経営参謀ラジオ|

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