今回は、セブン銀行が実践する「レイヤーマスター戦略」——競合であるはずの銀行のバリューチェーンにあえて入り込み、なくてはならない存在になる協調戦略——から、中小企業が学べる収益改善のヒントを解説します。
一度は使ったことがある方も多いのではないでしょうか。セブンイレブン以外でも見かけるようになりましたよね。そんなセブン銀行のビジネスモデルから、中小企業が参考にできることを考えていきましょう。
セブン銀行の競争戦略
セブン銀行は銀行業のバリューチェーンの中の「現金の入出金(ATM)」という一機能=レイヤーだけに特化し、その機能を自社の口座保有者だけでなく、本来は競合であるはずの他の銀行にも提供しています。この「レイヤーマスター戦略」(バリューチェーンの一部機能に特化して競争優位を築く戦略)により、682先もの金融機関が同行のATM網に依存する構造を作り、業界内で「なくてはならない存在」としての地位を確立しました。中小企業が学ぶべきは、自社機能の一部を競合にも提供することで、業界内での存在感と収益源を同時に手に入れられるという発想です。
セブン銀行はATM運営という一機能に特化し、682先の金融機関とATM提携を結んでいます。他行の顧客がセブン銀行のATMで現金を引き出すと、その手数料は提携先銀行の収入となり、提携先銀行はサービス対価としてセブン銀行に受入手数料を支払う仕組みです。収益の約9割はこの「ATM受入手数料」が占めています。
提携銀行にとっては、自前でATMを設置・保守するより、セブン銀行の設備を使われた分だけ手数料を払う方がコスト効率が良く、多くの銀行が「自前主義」を捨ててセブン銀行に依存する構造になっています。通常の銀行が一台設置するのに1,000〜2,000万円かかる一方、セブン銀行のATMは通帳記帳なし・小銭の取り扱いなしと構造を単純化し、1台300万円ほどに抑えられています。キャッシュレス時代に1日の決済件数が減少していく状況を踏まえると、セブン銀行に依存する選択は合理的だといえます。
このように、バリューチェーンの特定機能に特化することで、業界内の競合企業からも収益を得る戦略類型を「レイヤーマスター」といいます。
国内のATM設置台数は約27,000台、これに加えて海外4カ国のATMが2024年12月末時点で21,159台あり、合計するとおよそ4万8千台規模に達します。この規模の大きさが「参加しないと不利になる」というネットワーク効果をさらに強めています。
2025年9月には伊藤忠商事と資本業務提携を発表し、2026年春からE-netやゆうちょ銀行のATM約16,000台をセブン銀行ATMへ置き換える計画が進行中で、レイヤーとしての支配力はさらに拡大する見込みです。
一方で、この戦略は「規模の経済」が前提のため、参加金融機関数やATM利用件数が頭打ちになれば優位性は薄れます。コンビニ店舗数の伸びは鈍化しつつあり、キャッシュレス化が進めば現金需要そのものが縮小するリスクもある点は留意が必要です。
中小企業が参考にできること
①自社機能を顧客のバリューチェーンの中に入り込めないか
自社が持つ業務機能(検品、配送、経理処理、システム保守など)の中で、顧客の業務機能を代替できないか、外販できないか検討してみてください。
一度顧客のバリューチェーンに入り込むと、顧客はその機能のノウハウを手放してしまい、スイッチングコストも高くなるため、そうそう切り替えられなくなります。
②競合を「顧客」に変える設計を検討する
セブン銀行は他行を敵ではなく、手数料を払う顧客として扱っています。自社の設備・システム・ノウハウを競合企業に有償提供できないか、業界内の力関係を見直してください。最近は協働物流など、競合と一部機能を共有化する動きも出ています。
③従量課金型の収益モデルでキャッシュフローを安定させる
セブン銀行は使われた分だけ受け取る従量課金モデルです。自社も固定費型の投資を外部への従量課金サービスに転換できれば、稼働率が上がるほど利益率が改善し、資金繰りの安定にもつながります。遊んでいる製造設備を一部有償で使用させる会社も出てきています。
まとめ
- セブン銀行は「ATM(現金入出金)」という一機能に特化し、競合行にも提供する「レイヤーマスター戦略」で682先の金融機関が依存する構造を作った。
- 低コスト構造(1台300万円)と規模のネットワーク効果が優位性の源泉だが、規模の経済が前提のため、利用件数の頭打ちやキャッシュレス化は将来リスクになる。
- 中小企業も、①自社機能を顧客のバリューチェーンに組み込む、②競合を顧客に変える、③従量課金モデルで稼働率と資金繰りを改善する、という3つの視点を検討する余地がある。
次の一手
今日、自社の業務機能を1つずつ書き出し、その中で「顧客・競合他社に有償提供できそうな機能」を1つだけ選んで、実現可能性を検討してください。
また次回、よろしくお願いします。
ベンチマークコンサルティング 櫻井哲也
参考文献
山田英夫「競争しない競争戦略」日本経済新聞出版

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