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皆さんはビールを飲まれますか?
私は毎日ではないにしろ、お酒を嗜みまして、やはり一杯目はビールです。
ラガービールから、IPAなどのクラフトビールまで様々な種類を飲んています。
今回は、長野県軽井沢発のクラフトビールメーカー「ヤッホーブルーイング」を8年連続赤字から業界最大手へと導いた、井手直行社長の経営手法を5つの骨格に分解して掘り下げます。

企業サマリー

もともと、星野リゾート代表・星野佳路氏が米国に留学中に、クラフトビール市場が成長しているのを目の当たりにして、1996年に軽井沢で創業されました。
地ビールブームにも乗り、香りや独特のコクが特徴であるエールビール「よなよなエール」を販売。売上も順調に伸びていきました。
しかし、地ビールブームは長く続かず、鎮静化。各地の地ビール会社も相次いで倒産や廃業となり、当社の業績も急降下していき、8年連続の赤字を記録することになりました。
そんな中、2008年に創業社長の星野氏から、井手社長にバトンが引き継がれました。結果的に様々な施策により、業績は回復。「8年連続赤字の小さな地ビール会社」から「18期連続増収のクラフトビール最大手」に転換することができました。
それでは、どのような手法を取っていったのか、確認していきましょう。
赤字続きの小さな会社を変えたのは「戦略」より先に「発想の転換」だった
井手直行社長の経営手法は、①製品開発、②顧客経営、③事業定義、④生産・流通設計、⑤組織づくりという5つの骨格が連動して機能しています。どれか一つだけを真似ても効果は限定的ですが、自社の規模に合わせて組み合わせれば、中小企業でも十分に応用できる設計思想です。
以下、井手社長が実践してきた5つの骨格を、中小企業でも使える形に翻訳しながら見ていきます。
骨格①「100人に1人が熱狂する」製品開発
平均点を狙わない設計思想
一般的な商品開発は「多くの人に好かれること」を目指しがちですが、井手社長の考え方は逆です。同社は具体的な人物像(ペルソナ)を設定し、「100人に1人が強く共感する」ことをゴールに、味・ネーミング・パッケージを設計します。ペルソナは「40歳前後の、こだわりを持つ男性」「東横線沿線在住の30代キャリアウーマン」といった、実在しそうな一人にまで絞り込まれます。
賛否両論を恐れない
同社の製品開発の原則は「他社が真似を躊躇するくらい差別化する」「ターゲットは狭く具体的に」「賛否両論があってよい」の3つです。強烈な個性は一定数の反発を招きますが、共感した1割が熱心な支持者となって周囲に広め、結果的にマスマーケットにも届くという逆説的な構造を作り出しています。常時10数種類という多品種体制も、この「狭く深い」開発を複数の顧客層に同時に展開した結果です。
確かにネーミングも「よなよなエール」、「インドの青鬼」、「裏通りのドンダバダ」など個性的ですね。
中小企業への示唆
「誰にでも売れる商品」を目指すほど特徴が薄まり、価格でしか選ばれなくなります。自社の顧客の中で最も熱心な一人を思い浮かべ、その人だけに向けて仕様や説明文を作り直す、というだけでも商品の輪郭は変わってきます。
骨格②ロイヤル顧客経営―10%の顧客が売上の60%超
パレートの法則を超える集中度
同社の分析では、顧客の10%が売上全体の60%以上を生み出しているとされています。これは「上位2割の顧客が売上の8割を作る」という一般的な経験則よりもさらに集中度の高い数字で、井手社長自身も「データからそう推測している」と語っています。
ファンイベントという装置
この構造は偶然ではなく、意図的に育てられたものです。2010年に得意先のパブへファン40人を集めたのを起点に、100人、500人、1,000人、4,000人、5,000人と規模を拡大し、2018年にはお台場で5,000人規模の「超宴」を開催しました。コロナ禍で中止になった代わりに始めたオンライン「おうち超宴」には1万人が参加し、2026年5月には北軽井沢で1,000人規模のリアルイベントとして復活しています。定期便(サブスクリプション)サービスによる継続購買も、ロイヤル顧客との関係を収益に変える仕組みの一つです。
中小企業への示唆
大規模なイベントは難しくても、購入金額上位の顧客だけに向けた案内や、感謝を伝える機会を作ることは、どんな規模の会社でもできます。重要なのは「誰が優良顧客か」をデータで把握したうえで、意図的に接点を設計することです。
骨格③「ビールを中心としたエンターテインメント事業」という事業定義
競合をビール会社に限定しない
井手社長は自社を「ビールメーカー」ではなく「エンタメ事業者」と定義し、「競合はビール大手4社だけでなく、ディズニーランドや劇団四季も意識している」と公言しています。これは比喩ではなく、消費者の「楽しみ・感動」への支出を奪い合う相手としてエンタメ産業を位置づけ、ビールを通じてささやかな幸せ(体験・交流・物語)を提供することを事業戦略の核に据えているという意味です。
事業定義が広がると打ち手が増える
この定義のもとでは、ファンイベント、公式キャラクター、オンラインストアのグッズ、ブルワリーレストランのすべてが「エンタメ事業」の実装として一貫性を持ちます。単に「ビールを作って売る」という定義のままでは生まれなかった打ち手です。
中小企業への示唆
自社の事業を狭い業種の枠で定義していると、打ち手も狭くなります。「自社は何を売っているのか」ではなく「顧客にどんな体験や感情を届けているのか」で事業を定義し直すと、新しい競合認識と新しい打ち手が見えてきます。
骨格④生産・流通の二層設計とコンビニ戦略
委託と自社製造の使い分け
全国に流通する主力製品(よなよなエールなど)はキリンビールに生産を委託して品質と供給力を確保し、自社工場は製品開発と少量多品種品の製造に特化しています。固定費を抑えながら「大規模品質」と「小回り」を両立する設計です。
チャネルの使い分け
流通面では、ECで1本単位を全国へ届ける仕組みを持ちつつ、地元・軽井沢では特定エリアに営業リソースを集中する「ドミナント戦略」で圧倒的なシェアを確保し、ターゲット層と親和性の高いローソンや成城石井、公式ビアレストランへ重点供給しています。2014年のローソンとの共同開発「僕ビール、君ビール。」を皮切りに、2025年のセブン-イレブンとの共同開発「有頂天エイリアンズ」では、従来600〜1,000円だった価格帯を約半額の350円帯で全国流通させ、発売から4週連続でプレミアムビールカテゴリ販売数1位、3か月で出荷110万本を記録しました。
中小企業への示唆
「すべて自社で作る・売る」にこだわらず、得意な工程だけを自社に残し、量産や新規チャネルの開拓は提携で補うという発想は、設備投資の体力がない中小企業ほど有効です。
骨格⑤3階層フラット組織と企業文化
シンプルな階層設計
組織は社長―ディレクター―プレイヤーの3階層のみという極めてフラットな構造で、年次や職位を問わずあだ名で呼び合うニックネーム制(社長は「てんちょ」)を採用しています。
チームビルディングへの投資
2009年からチームビルディングに本格的に取り組み、現在は5種類のプログラムを希望者に提供しています。その結果、離職率は1〜2%にとどまっており、井手社長は「業績が好調なのは間違いなくチーム作りに力を入れてきたからだ」と断言しています。
中小企業への示唆
組織が小さいうちほど、階層を増やさずフラットに保ち、人間関係の質に投資する余地があります。離職率の低さは採用コストの削減に直結するため、財務面でも見過ごせない効果です。
5つの骨格をどう組み合わせるか
これら5つは独立した施策ではなく、相互に補強し合う設計です。「①狭く深い製品開発」で生まれた熱心な顧客を、「②ロイヤル顧客経営」で関係を深め、「③エンタメ事業という定義」でその関係の使い道を広げ、「④生産・流通の二層設計」で低コストに供給し、「⑤フラットな組織」がその全体を機動的に回す、という循環構造になっています。中小企業がすべてを一度に取り入れる必要はありません。自社にとって最も手薄な骨格はどれかを見極め、そこから着手することが現実的です。
次の一手
自社の顧客データを見返し、直近1年の購入金額上位10%に該当する顧客を書き出してください。その顧客に共通する特徴を1つ言葉にできれば、それが「100人に1人が熱狂する」商品・サービス設計の出発点になります。
何はともあれ、今夜はクラフトビールを飲みたいですね。
また次回、よろしくお願いします。



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