財務管理ツール

資金繰り表 作成手順ガイド

中小企業の経営者・担当者向け | 月次資金繰り管理の基本

資金繰り表とは

12か月(1年間)現金の入り・出・残高を時系列で管理する表です。損益計算書(P/L)では見えない「キャッシュフロー」を把握し、資金不足を事前に察知するために使います。

ℹ️ 利益が出ていても現金が不足する「勘定合って銭足らず」を防ぐのが最大の目的です。
作成のメリット
  • 資金不足の発生を1〜3か月前に察知できる
  • 金融機関への融資申請に説得力が増す
  • 売掛・買掛の回収・支払サイクルを可視化できる
  • 設備投資・賞与など大型支出の計画が立てやすくなる
  • 経営者の「資金感覚」が鋭くなる
作成頻度・管理単位
管理単位用途
月次通常の経営管理(推奨)
週次資金逼迫時・繁閑が激しい業種
日次(日繰り表)危機的状況・建設業など
📅 12か月(1年間)予測と実績の両方を管理するのが基本
💡 慣れないうちは日繰り表に毎日の入出金を1行ずつ記録し、月末にまとめて月次資金繰り表へ転記する方法が確実です。
P/L・B/Sとの違い
書類何を見るかタイミング
損益計算書(P/L)利益・費用(発生主義)期末・月末
貸借対照表(B/S)資産・負債・純資産の残高期末
資金繰り表現金の入出金(現金主義)毎月・随時
1必要な資料を揃える

収入側の資料

  • 売上台帳・請求書控え
  • 入金予定一覧(売掛金明細)
  • 補助金・助成金の交付決定通知
  • 借入金の入金予定
  • 前月の通帳(残高確認)

支出側の資料

  • 仕入れ台帳・請求書(買掛金明細)
  • 給与台帳(賞与・社会保険含む)
  • 家賃・リース料の一覧
  • 税金支払い予定(法人税・消費税等)
  • 借入金の返済スケジュール表
  • 設備投資の支払い予定
2入出金サイクルを確認する

「売上が立つタイミング」と「現金が入るタイミング」のズレを把握することが最重要です。

取引種別確認事項
売掛金回収請求月から何か月後に入金か翌月末払い=1か月ズレ
買掛金支払仕入れから何か月後に支払うか翌々月10日払い
給与締め日・支払日月末締め翌25日払い
税金支払月・金額法人税:決算後2か月以内
借入返済引落日・元利金額毎月25日 元金+利息
3管理ツールを選ぶ
ツール特徴推奨規模
Excelシート柔軟・カスタマイズ自由・無料全規模(最も普及)
会計ソフト連携弥生・freee等で自動生成可記帳をソフト管理している場合
専用テンプレート日本政策金融公庫等が無料配布初めて作成する場合
⚠️ 最初はExcelの既存テンプレートを活用し、慣れてから自社仕様にカスタマイズするのが失敗しない進め方です。
資金繰り表の基本構成(3区分)

資金繰り表は経常収支・経常外収支・財務収支の3区分で構成します。当月末残高は前月末残高に3区分の合計を加減して算出します。

経常
経常収支

本業の入出金を管理する区分。売上回収・仕入支払・人件費・経費など、毎月繰り返される通常の営業活動に伴う現金の動きをすべて計上します。

経常外
経常外収支

本業以外の一時的な入出金を管理する区分。設備投資・固定資産売却・補助金・税金(法人税・消費税等)など、単発または不定期に発生する収支を計上します。

財務
財務収支

資金調達・返済に関する区分。借入金の入金・借入返済(元金)・支払利息・増資(出資)など、金融取引に伴う現金の動きを計上します。

残高
当月末残高

前月末残高 + 経常収支 + 経常外収支 + 財務収支 = 当月末残高

経常収支 ― 主な項目
区分項目例ポイント
収入 現金売上販売日=入金日
売掛金回収回収予定日で計上(請求日ではなく入金日基準)
受取手形決済手形の期日で計上
前受金受取受け取った月に計上
支出 現金仕入・買掛金支払振込予定日で計上
人件費(給与・賞与)支払日で計上(賞与は別行で管理推奨)
社会保険料毎月納付(前月分翌月末)
家賃・リース料引落日で計上
外注費・業務委託費支払日で計上
その他経費(光熱費・通信費等)引落・支払日で計上
経常外収支 ― 主な項目
区分項目例ポイント
収入 補助金・助成金交付(入金)確定後に計上
固定資産売却売却代金の入金日で計上
支出 設備投資・固定資産購入実際の支払日(手付・残金それぞれ)
法人税・消費税・固定資産税納付期限日で計上
ℹ️ 税金は金額が大きく支払月が集中するため、消費税(3月・5月等)・法人税(決算後2か月)・固定資産税(5月・11月等)を別行で年間カレンダーに落とし込んでおくことが重要です。
財務収支 ― 主な項目
区分項目例ポイント
収入 借入金(新規)実際の入金日で計上
増資(出資)払込日で計上
支出 借入金返済(元金)引落日で計上(返済スケジュール表と照合)
支払利息引落日で計上(元金と分けると管理が明瞭)
💡
慣れないうちは日繰り表から始める
最初は日繰り表に毎日の入出金を1行ずつ記録し、月末にまとめて月次資金繰り表へ転記する方法が確実です。日繰り表に慣れると入出金の「日付感覚」が身につき、月次予測の精度が上がります。
記入の7ステップ
STEP
1
管理期間と月の列を設定する

横軸に「月」を配置します。通常は翌月〜12か月先(1年間)まで作成します。縦軸に経常収支・経常外収支・財務収支の各項目を並べます。

STEP
2
前月末の現預金残高を「繰越残高」として記入

通帳・会計ソフトの残高と一致させます。複数口座がある場合は合計額で管理(口座別に管理するとより精度が上がります)。

STEP
3
収入欄を記入する(確定分から順に)
  • 売掛金:得意先別の入金予定日・金額を転記
  • 現金売上:過去実績から予測して入力
  • 融資・補助金:確定しているもののみ計上(見込みは注記扱い)
STEP
4
支出欄を記入する(固定費→変動費→臨時の順)
  • 固定費(給与・家賃・リース・借入返済):毎月同額なので最初に一括入力
  • 変動費(仕入・外注費):売上予測に連動して入力
  • 臨時支出(税金・賞与・設備投資):支払月に単発で入力
STEP
5
当月収支(収入合計 − 支出合計)を算出

Excelの場合は自動集計式を入れておきます。収入合計 - 支出合計 = 当月収支

STEP
6
翌月末残高を算出・連鎖させる

前月末残高 + 当月収支 = 当月末残高
この当月末残高を翌月の「繰越残高」として参照させます(Excelのセル参照で自動連鎖)。

STEP
7
残高がマイナスになる月を確認・対策を検討
  • 残高がマイナスまたは安全在高(月商の2〜3か月分)を下回る月は赤字セルで強調
  • 対策例:回収サイトの短縮交渉、支払期日の延長、つなぎ融資の検討
記入時の重要ルール
やること
  • 入出金は「現金主義」で記録(発生日ではなく入出金日)
  • 予測値と実績値を色分けして区別する
  • 確定額と見込み額を分けて管理する
  • 毎月末または翌月初に実績更新を行う
やってはいけないこと
  • 売上=入金と思い込んで売上日で計上する
  • 消費税を収支に含めて管理を混乱させる
  • 作成したまま放置して更新しない
  • 融資申請のためだけに楽観的な数値を入れる
資金繰り表 ― 記入サンプル(月次・3か月分)

単位:千円 ※数値はサンプルです

項目 7月(実績) 8月(予測) 9月(予測)
【経常収入】
 現金売上800750900
 売掛金回収3,2003,5003,200
 受取手形決済5000500
経常収入合計 (a)4,5004,2504,600
【経常支出】
 現金仕入・買掛金支払1,8001,7001,900
 給与・賞与1,2001,2002,400
 社会保険料180180180
 家賃・リース350350350
 その他経費240220250
経常支出合計 (b)3,7703,6505,080
経常収支 ①(a-b) +730 +600 ▲480
【経常外収支】
 補助金・助成金000
 設備投資000
 税金(消費税・法人税等)08000
経常外収支 ② 0 ▲800 0
【財務収支】
 借入金(新規)05,0000
 借入返済(元金)300300300
 支払利息303028
財務収支 ③ ▲330 +4,670 ▲328
【収支・残高】
当月収支 ①+②+③+400+4,470▲808
前月末残高1,6002,0006,470
当月末残高 2,000 6,470 5,662
⚠️
9月のポイント:賞与支給月と重なり経常収支はマイナス、財務収支も返済でマイナスとなり当月収支は▲808千円。8月に融資実行(5,000千円)があるため残高は5,662千円を確保。
→ 8月の融資実行がなければ9月末残高は662千円となり危険水域。事前の融資計画(財務収支の活用)が機能している事例。
完成後の確認チェックリスト

数値の整合性チェック

  • 期首残高が通帳残高・会計帳簿と一致しているか
  • 売掛金回収は請求月から正しいサイトで計上されているか
  • 借入返済額は融資残高明細書と一致しているか
  • 税金の支払い月・金額は税理士確認済みか
  • 賞与・決算賞与は支給月に計上されているか
  • 消費税の扱い(税込/税抜)が統一されているか

リスク確認

  • 残高が月商の2か月分を下回る月はないか
  • 残高がマイナスになる月はないか
  • 大口回収の遅延リスクを考慮しているか
  • 想定外の設備故障・修繕費の余裕はあるか
  • 売上が10〜20%減少した場合でも残高は確保できるか(感度分析)
月次運用フロー
月初
1〜3日
前月実績の確定入力

通帳・会計ソフトと照合し、予測値を実績値に差し替えます。乖離額と原因を必ずメモします。

月初
3〜5日
翌月以降の予測を更新

受注状況・入金予定・大型支出の変化を反映します。先12か月分(1年間)を常に最新化します。

月初
5〜10日
経営者レビュー・対策立案

残高が危険水域に近づく月があれば、この時点で金融機関への相談・回収交渉・支払い調整を着手します。

鉄則:資金不足が見えたとき、銀行への相談は早ければ早いほど選択肢が広がります。資金ショート1週間前では融資は間に合いません。
金融機関への提出時のポイント
場面提出範囲注意点
新規融資申請過去3か月(実績)+12か月(予測)予測の根拠となる受注状況・計画を別紙で添付
条件変更(リスケ)過去6か月(実績)+12か月(予測)改善計画との整合性を確認
定期報告当月実績(更新版)前回提出分との乖離とその理由を説明できるようにする
ℹ️ 金融機関は「数値の正確さ」よりも「変化に気づいて迅速に共有・対処している」姿勢を評価します。楽観的な数値で塗り固めた表は信頼を失う原因になります。
次の一手(具体的行動)
  1. 今月の通帳残高を確認し、「繰越残高」を入力してスタートする
  2. ② 売掛金明細・借入返済表・給与台帳の3点を手元に揃える
  3. ③ 先3か月分の概算を30分で作成する(精度より完成優先)
  4. ④ 残高が危ない月があれば、本日中に税理士・金融機関へ相談の連絡を入れる
  5. ⑤ 月次更新ルールを社内で決め、担当者・更新日を明示する